歯の再移植の流れ

術前

一 ヵ月前にある歯科医院で奥歯の根管治療を受けたそうです。 ところが治療をするたびに痛みが増すので、 そのことを伝えると 「痛みを とるために神経を取りましょう」 といわれて神経をとったそうですが、 逆に痛みが増してきました。
っ いには、 その歯科医は 「このままではよくならないから、 抜歯をしてインプラントにした方がいいのではないか」 と勧めてきました。 そんな治療に不信感があるということで来院されました。

術中

レントゲン写真をみると根管とはまったく違うところに穴が開いていました。 さらに、 炎症も大きく失血もありました。 この状態ではこの歯が保存可能か不可能か判断できませんでしたが、 一 度抜歯をして根に開いた穴を塞いでから再度、 抜いたところに戻し てみました。 歯根の表面には歯根膜靭帯という組織がありますが、 その靭帯組織 が60%近く生きている場合、速やかに戻せば元どおりにくっつくのです。
今回のケースでは、 治療としては50対50 (フィフティー フ イフティー) の確率でしたが、 説明を聞いた患者様が望まれたのでチ ャレンジしてみました。

術後

術後三ヵ月のレントゲン写真です。 炎症や痛みも治まり、 抜歯した 歯も元どおりに生着しています。

この症例のように、 フィフティー フィフティーの可能性で治療してうまく行くこともあ りますので、 歯を残すための治療の 一 つとして再移植もいいと思います。 しかし、 生着した 歯がどのように変化していくかを診るには検診をしていかなくてはなりません。 稀に、 移植 した自分の歯に免疫機構が働いて、 歯根が溶けていく場合があるためです。 このように書くと不確かな治療法のように思われるかもしれませんが、 ほとんどのケース ではうまくい っていますので安心してください。

今回のケースで問題なのは、 最初に間違った治療をした歯科医です。 さらにその間違いを インプラントによってカーバーしょうとしたところに、 さらなる問題点があります。 インプ ラントロジストとして、 このようになんでもインプラントにすればいいと安易に考える歯科 医がいることに憤りすら覚えますが、 患者様には自己防衛のためにも歯科医を見分ける目を 育てていただきたいと思います。


歯の再移植

歯を抜かなくてはならない状況があったとします。ある歯医者は、抜歯をして、よくできた入れ歯を入れてくれます。また別の歯医者は、何とか歯の根を残し、よくできたクラウンで被せてくれます。そのまた別の医者は、インプラントを入れてくれます。三人の歯科医はそれぞれ名医です。その歯の状況や、診断基準などによっても違いがありますが、お互いの考え方は尊重すべきです。ただ、私が許せないのは、まるで医療を食い物にしているような行為があることです。

地方の先生がインプラントは儲かるからと、大々的に広告を打ち、都心の一等地にインプラントセンターと銘打ってどんどん開業しています。とても使命感や哲学を持って治療しているとは思えません。それらのトラブルを抱えた患者様には、本当にインプラントが必要であったのか疑問が残るケースが多々見られます。
せっかくインプラント治療の信頼性や認知度が上がってきているのに、歯科医がこれを壊しているようでは元も子もありません。

また、インプラントを否定している先生たちにも問題があると思います。否定派に回る歯科医は、過去にインプラント治療を失敗していたり、他の医院で失敗したインプラントを取り外していたり、そうした経験則から否定派に回っているのだと思います。自身の極めて稀な経験則から物ごとを計るのは、科学者のはしくれとしていかがなものかと思います。もっと学術的に談義してもらいたいものです。

さて、話を先程の三人の歯科医の治療について戻すと、できる限り歯は残す。それでもダメな場合はインプラントをする、というコンセンサスがもっとも理にかなっていると私は思います。その際の、歯を残すという治療の選択肢の一つとして、歯の再移植があります。まだ一般にはなじみがない治療法ですが、歯の再移植とはどのようなものなのでしょうか。


インプラントと抜歯

日本人の場合、抜歯をした段階でおびただしい濃胞(濃のかたまり)や不良肉芽(感染し た歯肉) に遭遇します。当然のことながらその除去に時間もかかりますし、骨の形もガタガ タで、結果として骨はやせ細って貧弱な状態になっているのです。

つまり、日本人の顎の骨が貧弱というのであれば、それは遺伝的な問題というよりも、受けた歯科治療のレベルの低さと、寿命の尽きた歯を長期間無意味に保存する歯科医の診断力の低さに由来するのではないでしょうか。歯科医が今日使っている診断基準にはまだ不確定要素が多く含まれており、残せると思った歯が残せないということも起こりえます。つまり、歯科医の診断は必ずしも絶対的なものとはいえないのです。

ですから、抜歯の基準は歯そのものではなく骨が残せるか否かで判断すべきで、仮に骨を残せないと診断された場合は速やかに抜歯すべきです。希望のない歯を無理に残すことが必ずしも良心的な歯科医療行為とはいえず、抜歯の時期を誤ったためにその後のインプラント治療を困難にするケースが多々あります。その意味でも、戦略的抜歯は、正しい歯科医療行為なのです。

インプラントのもつ高い信頼性が確認された今日、どの時期に抜歯をするかという判断は、歯科医に与えられた重要な任務です。それを実行するうえで既成概念にとらわれない高い診断力が求められているのではないでしょうか。